NewsPicks|大企業の“複雑な業務”は、ノーコードによってAI時代の資産へ
2026年5月22日

NewsPicks|大企業の“複雑な業務”は、ノーコードによってAI時代の資産へ

生成AIで誰でも自然言語からアプリを作れる。この現実に、「SaaSはもう要らなくなるのではないか」と感じた人も多いだろう。世界では「SaaS is Dead(SaaSの死)」という言葉まで飛び交う。
当事者は今、この潮流をどう受け止めているのか。大企業向けとして高い支持を集めているSaaS型ノーコード開発基盤「SmartDB(スマートデービー)」を提供するドリーム・アーツの取締役 執行役員・馬本高志氏は、「むしろこれから私たちの重要性は増していく」と言い切る。AI時代に、なぜなのか。
これからのAIと自社SaaSの関係、日本のDXが進まない根深い原因、さらには日本企業に眠る意外な成長の可能性まで、語り尽くす。

AI向けに「精米」するSaaS

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2026年現在、生成AIやバイブコーディングの進化で、「SaaS is Dead(SaaSの死)」が語られるようになりました。SaaSを提供する側として、この議論をどう受け止めていますか。

私たちは危機感を持っていません。当社のノーコード開発基盤「SmartDB」はSaaSですが、AIに置き換えられるのではなく、「AIから参照される」SaaSだと捉えているからです。

2014年、同志社大学経済学部を卒業。同年4月、ドリーム・アーツに新卒入社。新規事業営業部およびコンサルティンググループでの業務に従事。営業部長、マーケティング本部長を経て、2024年執行役員、2026年3月現職に就任。

というのも、これからAIはますます、自律的に企業内のデータやシステムを参照する方向へ進化していきます。手元のファイルをAIに添付するのではなく、特定の場所に大量に保存してある「構造化データ」を、AIが横断的に参照して答える。そんな使い方が当たり前になっていく。

構造化データは、表形式などで項目別に整理され、AIやシステムが意味を理解したまま自動的に参照・更新できる形に整えられたものを指します。

しかし実態として、企業が保有するデータの多くは構造化されていない。Wordやメール、画像、紙のPDFなど「生データ」のまま、形式も保存場所もバラバラです。

近年は非構造化データも扱えるようになってきましたが、文脈の揺らぎや根拠の曖昧さ、横断的な情報抽出の難しさといった制約は残ります。結果として、規模が大きくなるほどコストや処理遅延が課題になります。

次々と登場するAIツールは、いわば高性能な「炊飯器」。でも忘れられがちなのが、AIが参照するデータという「米」の存在です。どれだけ炊飯器が進化しても、精米されていない米では「おいしいご飯」を炊けない、つまりAIが効果的にアウトプットできないのです。

だからこそ、構造化データをつくり一箇所に蓄積する。「AIが参照する場所」としての役割を果たすのが、私たちの「SmartDB」です。SmartDBは、AIが扱える形にデータを整える、いわば「精米する」SaaSです。

ドリーム・アーツが本気で向き合っているのは、AIそのものではなく、AIの力を最大限に引き出すための「米」、すなわちデータなのです。

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具体的に、SmartDBはどんな機能を備えたツールなのでしょうか。

大量のデータを構造化して管理する「Webデータベース」、大企業の商習慣に対応した複雑な業務フローを柔軟に設計できる「プロセス」、きめ細かなアクセス制御や監査証跡までを担保する「セキュリティ」という大きく3つの機能があります。

Webデータベース」は、たとえるなら入力項目(フォーム)を業務に合わせて設計できる、共有のExcelやスプレッドシートのようなものです。入力ルールを定義することで、データを正確に登録しながら構造化した情報を大量に蓄積し、横断的な検索や活用を前提に管理できます。

このWebデータベースを基盤としてさらに「プロセス」を重ねることで、大企業特有の承認階層や例外処理を含む複雑な業務フローにも対応できます。役割や順序に基づいてデータを扱うことで、整合性と一貫性を保った管理が可能になります。その過程で、情報の更新履歴や意思決定の経緯も自動的に記録されます。

セキュリティ」面では、ユーザー台帳や組織情報を基盤に、役割や部門に応じてきめ細かく権限制御と監査証跡を管理できます。AIによる参照も同じルールの範囲で行われるため、セキュリティを担保したままの活用が可能となるのです。

SmartDBには、その他さまざまな機能が標準で備わっており、追加開発に頼ることなく自社の体制や業務に沿ったシステムを構築できます。

SmartDB上で業務をデジタル化すること自体が、効率化だけでなく組織の活動そのものを構造化データとして蓄積していくことにもなるのです。

DXを阻む「IT人材7:3問題」

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とはいえ、日本企業ではその「業務のデジタル化」が遅れ、AI活用や、DXも進んでいませんよね。

日本の特に大企業では、業務をデジタル化すること自体に固有の難しさがあるんです。

たとえば人事・総務などのワークフロー申請・承認プロセス。承認の階層数、ルートの分岐、承認者の組み合わせ、兼務の多さなどが複雑に絡み合った企業が多い。

「4階層目で否認されたらこのルートへ回す」「全員の承認が必須」「10人中8人の承認でよい」などさまざまなパターンがあり、否認されたら「誰がどんな理由で」という証跡管理も求められます。

大企業であるほど、こうした業務プロセスは独自に増改築を繰り返しています。その「複雑性」までも含めて「自社業務を正確にシステムへ翻訳する」ことができなければ、現場で使える新しいシステムにはならない。

従来は、この「翻訳」をIT人材が一手に引き受けてきました。ところが、ここで「日本の事業会社にはIT人材がほとんどいない」という新たな壁が立ちはだかります。

たとえばアメリカのIT人材は、IT企業に約3割、それ以外の企業に約7割という比率で存在します。日本は逆で、IT企業に約7割が集中し、それ以外には約3割しかいない。

IT人材が偏在しているから、多くの企業がシステム開発をITベンダーに委託します。さらにITベンダーにも下請けがいる多重下請け構造になっており、誰がいつどうやってシステム開発したかがブラックボックス化しやすくなる。「データ項目を一つ追加したい」とベンダーに依頼しても、半年・数千万円かかるという話は珍しくありません。

企業側はスピーディに変わりたいのに、自分たちではシステムの開発や改善ができない。私たちはこの現状を「ITイニシアティブの喪失」と呼び、解決すべき課題だと捉えています。

こうしたいくつもの課題の積み重ねが、日本企業のDXが進まない大きな要因になってきたのです。

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その現状は、どうすれば打開できると考えますか。

端的に言えば「IT人材でなくても、一定レベルのシステム開発ができる状態」をつくることです。

ITに詳しくない現場の業務部門はこれまで、自分が使うシステムであっても、開発は情報システム部門やITベンダーに任せるものだと認識してきた。「ITスキルがないと開発なんてできない」と思ってきました。

一方、社内のIT部門は、基幹システムの運用・保守など専門性が高い業務で手一杯。現場業務のシステム開発にまで手が回らない。社外のITベンダーに依頼しても5~6か月待つのが通常です。

であれば、現場の業務部門自身でシステム開発ができることが、本来は一番良い。それを実現するのが、SmartDBなんです。

半年を3日に短縮するノーコード

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なぜSmartDBだと、現場自身でシステム開発ができるのでしょう。

SmartDBがITスキル不要の「ノーコード」の開発基盤だからです。

SmartDBでは、画面上の項目の組み合わせだけで、その企業に即した複雑なワークフローや入力フォームなどを設定できる。条件や承認経路をパズルのように組み合わせていく感覚です。業務をよく知っている現場の人材自身が、自社の複雑性に合わせ、システムを開発・運用できる。

ノーコードであることで、システム開発の進め方も大きく変えられます。

従来主流だったITベンダーへの委託開発では、要件を固めたうえで数か月から数年かけて開発を進めるウォーターフォール型が主流でした。基幹システムなど要件が明確で変更の少ない領域では、今も有効な手法です。

一方で、現場に近い業務システムでは、運用を始めてから要件が変わることが当たり前になっています。変化のスピードが速い業務領域では、次第にシステムと現実が乖離してしまう。 こうした背景から、一発での完成を待つ開発スタイルよりも、柔軟に改善を重ねられるほうが望ましい。

SmartDBを使う場合、私たちは「ニッパチ」と呼んでいますが、「2割の時間で8割の完成度」のものを作り、残りは現場で使いながら直していく、というフローが可能です。現場だけで、早ければ1~3日でシステムのプロトタイプをつくれます。

最初から丁寧に作り込んでも、時間の経過とともに求める要件は変わっていく。だから、未完成でも早めにテストしたほうがいい。アジャイルに作り込み、「こういう機能がほしい」という追加要望にもすぐ応えられる。現場が今まさに求めるシステムを即座につくれるのが強みです。

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現場が直接システムをつくれるようになると、IT人材不足がある程度解消できますね。

その通りです。近い概念に「ローコード」がありますが、ローコードはより幅広い用途に対応できる一方、ある程度のソースコードを書くITスキルも必要です。誰でも扱える点で、よりIT人材不足に効果的なのがノーコードです。

さらに、開発ができるようになると、デジタル活用が自分事化していきます。「この問題はデジタルで何とかできないか」「このシステムはもっと改善できそうだ」という発想が自然に出てくるようになる。IT人材でなくても、課題を感じる人が自ら解決に動けるようになるんです。

たとえばツルハホールディングス様では、IT人材ではない経営企画部門の担当者が、SmartDBを使い、全国約2600店の店舗情報を一元管理するシステムをゼロから内製しました。

社内での活用が広がるケースもあります。KDDI様では、まず人事系の申請業務から着手し、SmartDBの人事評価などで多くの従業員が利用することで認知・興味が高まりました。その後、1万人以上が利用する基幹業務に近い稟議書システムやその他コーポレート領域を中心に、200以上の申請書を構築されました。

内製でDXを実現し、自分の業務を自分の手で変えていけるようになる。これを私たちは「デジタルの民主化」と呼び、日本企業にとって成長のカギになると捉えています。

デジタルの民主化が日本を強くする

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「デジタルの民主化」とは何なのか、もう少し具体的に聞かせてください。

私たちは、次の3つがそろったときを「デジタルの民主化」の実現と捉えています。

重要なのは、主語がいずれもIT部門ではなく「業務部門」、つまり現場であることです。現場がDXの投資対効果に責任を持ち、業務要件や仕様決定を主導することが本質です。

そのうえで、現場が自らシステム開発する「市民開発」を含む内製化によって、自ら実装できる状態を整えつつ、必要に応じてIT部門や外部の力も活用する――そうした形であっても、常に現場が主導権を握っていることが重要です。

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では「デジタルの民主化」が実現すると、何が起きるのでしょう。

まず、IT部門が本来集中すべき専門性の高い領域に時間を使えるようになります。さらに、業務部門とIT部門の関係も変わります

業務用のシステム開発は「業務知識」と「ITスキル」が必要で、これまで前者は業務部門、後者はIT部門やITベンダーが担う形で分業してきました。そこにSmartDBというノーコードツールが加わると、業務部門は自分の手を動かす中でITのことが少しわかるようになる。

一方、全社横断の領域では、引き続きIT部門に相談することもあります。そのときにIT部門も、業務部門がどんな業務をデジタル化しているか、どこに課題を感じているか、自然と解像度が上がる。両者にSmartDBという「共通言語」ができ、協力しやすくなるんです

そしてDX人材が育つ。実際に当社のお客様では、業務部門でSmartDBを使っていた方が、その実績をもとにDX推進部に抜擢されるという人事が繰り返し起きています。

「デジタルの民主化」がもたらすこれらの変化が、IT人材偏在による日本の「DX停滞」を突破する力になると、私たちは考えています。

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IT人材をめぐる日本企業の課題に向き合いながら、DXを実現しやすくしようとしているわけですね。

はい。DXの中でも、私たちは目指す先を「日本型DX」と呼んでいます。

「DXを進めないと」と思いつつ、どこか腹落ちせず「自社にそのまま当てはまらない」「うちの会社には難しい」と感じてきた方も多いと思います。

こうした感覚は怠慢ではなく、私たちはむしろ「健全な防衛反応」と捉えています。日本企業には長い時間をかけて育ててきた「独自の強み」があり、安易にデジタル化をすればそれが損なわれるおそれもあるからです。

その強みの中でも重要なのは「卓越した現場知」と「組織知」です。「卓越した現場知」とは、現場が日々の複雑な業務の中で培ってきた暗黙知のこと。各自の経験や工夫にもとづいており、言語化しづらいけど極めて重要なものです。

それを部署や立場を超えて社内で共有し、組織で活用できる形にしたものが「組織知」です。日本企業が築いてきた高い信頼性や品質、多くの意思決定を支えてきた文脈は、こうした知の積み重ねから生まれてきました。

一方、従来型DXは、現場ごとの違いや無駄を削ぎ落とし、一律に標準化することが多かった。効率的にはなるものの、現場の工夫や判断の背景が置き去りになることも少なくありません。すると結果として、分散していた現場知が消えてしまう。日本企業が本来持っていた強みを失いかねないのです。

それに対して私たちが考える「日本型DX」は、現場知・組織知という日本企業の強みを、デジタルの力で進化させていくDXです。

私たちはそのために、現場知や組織知をデジタル上で扱えるようにすることに取り組んでいます。データの背後にある意味・文脈・判断や、業務上の関係性、権限の制御、前提となる組織構造。こうした要素をデータと結び付けることで、データの価値を飛躍的に高める技術を磨いています。

もちろん非効率な作業や重複した業務は見直し、無駄は省くべきです。その上で、何を効率化し、何を活かすのかを見極めながら、現場と組織の価値を次の時代につないでいく。そこに日本型DXの意義があります。

SmartDBでは、大企業の複雑な業務に即したデジタル化が可能です。それは散らばる現場知を可視化し、組織知へと昇華させる、日本型DXの土台になる

そのためには、現場知を最もよく知る人、つまり現場の人材自身がDXを主導する必要があります。だからこそ、「デジタルの民主化」が求められるのです。

「失われた30年」と言われますが、私たちは日本企業が独自の強みを「育んできた30年」だと考えています。今求められるのは、眠っているその強みをデジタルの力で最大限に活かし、成長につなげていくこと。そこに、私たちが提供できる価値があると思っています。


制作: NewsPicks Brand Design

撮影:大橋友樹
デザイン:Seisakujo inc.
執筆・編集:青木正典

NewsPicks Brand Designにて取材・掲載されたものを当社で許諾を得て公開しております。
2026-︎05-22 NewsPicks Brand Design

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