「IT丸投げ」から「自走するDX」へ
構造的限界をノーコードで突破
ダイヤモンド ハーバード・ビジネス・レビュー
ドリーム・アーツ 執行役員 プロモーション&ブランディング本部 本部長 馬本高志氏
サマリー:日本企業のDX停滞はIT人材のベンダー偏在による外部依存が主因だ。業務部門がノーコード基盤で主体的にDXを推進する「デジタルの民主化」が、この構造的限界を打破し、経営のアジリティを取り戻すカギとなる。
クラウドやAIなどテクノロジーの大きな潮流が加速する中、日本企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)はなぜ停滞しているのか。その深層には、IT人材の約7割がベンダー側に偏在するという、日本特有の構造的な問題がある。外部依存によるシステムのブラックボックス化とスピードの欠如は、もはやIT部門だけの問題ではなく、経営のアジリティを奪う重大なリスクとなっている。この硬直した構造を打破するには、業務部門がみずから課題解決を主導する「デジタルの民主化」が避けられない。大企業向けノーコード開発基盤「SmartDB」(スマートデービー)を提供するドリーム・アーツの視点から、日本企業が取るべきDX内製化への道筋を提示する。
日本企業を縛る「構造的限界」とは
クラウドやAIといった新たなテクノロジーが重層的に広がるいま、日本企業の変革への機運はかつてないほど高まっている。だが、現実には多くの企業がDXの停滞に苦しんでいる。
その背景にある日本の構造的な問題について、ドリーム・アーツ執行役員の馬本高志氏は「最も大きいのは、IT人材の偏在です」と指摘する。米国ではIT人材の約7割がユーザー企業に在籍するのに対し、日本では逆に約7割がベンダー側に偏っている。この構造が日本企業のIT外注依存を固定化させてきた。多重下請け構造によるコスト増と納期の長期化に加え、何より深刻なのは「IT丸投げ」のマインドセットが定着し、ユーザー企業がイニシアティブを失っている点である。
この構造は、企業に2つの「ブレーキ」をかけていると馬本氏は分析する。一つは「業務変革へのブレーキ」だ。現場がプロセスを変えたくても、IT部門は既存システムの保守やセキュリティ対応で手いっぱいであり、要望は「行列待ち」の状態に陥りがちだ。
もう一つは「戦略的意思決定へのブレーキ」である。新たなビジネスチャンスを捉えようとしても、システムの開発・導入が間に合わないために機会を逸してしまう。
ITのイニシアティブが社内にないことが、経営のアジリティを鈍らせるのである。変化の速い現代の経営において、これは致命的なリスクとなる。
「デジタルの民主化」は組織全体の意識を変える
2030年には国内で最大約79万人のIT人材が不足する(経済産業省推計)と予測される中、もはや外部依存モデルは限界を迎えている。この状況下で不可欠なのが、経営課題としての「DX内製化」である。しかし、内製化と言っても、すべての企業がIT専門人材を大量に採用できるわけではない。そこでカギとなるのが、ドリーム・アーツが提唱する「デジタルの民主化」である。
デジタルの民主化とは、IT専門人材に頼らず、業務部門が主体的にDXに取り組むことを指す。ドリーム・アーツでは、「業務部門がみずから予算と責任を持ったうえで、主導的にデジタル化を推進し、それを自律的かつ継続的に行える状態」と定義する。
これを可能にするのが、プログラミング知識なしでアプリケーションを構築できる「ノーコードツール」の進化だ。「技術的にはデジタルの民主化が可能な環境が整っており、実際に確かな成果が出ています。ただ、『自分たちでできる』という認識が十分に追いついていない点が課題です」(馬本氏)
重要なのは、「自分たちの業務を自分たちで変えられる」という効力感を取り戻すことだ。座学でスキルを学ぶだけでは意識は変わらない。みずから課題を発見し、解決策を実装し、改善する。この実践のプロセスそのものが、組織全体の意識変革へとつながる。
現場がアプリケーション開発を担うようになると、IT部門の存在感は低下するのだろうか。馬本氏はそれを明確に否定する。「IT部門の重要性はより高まります。具体的には、ガバナンスの設計や現場の支援へと役割がシフトするのです」
現場はノーコードツールを用いて、みずからの業務に適したシステムを「市民開発」する。ノーコード開発基盤「SmartDB」が、そのための強力なツールとなる。一方でIT部門は、セキュリティやデータ整合性の確保、アカウント管理といった基盤を整備し、現場が安心してDXを推進できる環境を提供する。現場とIT部門が対立するのではなく、対等なパートナーとして協創するエコシステムこそがDXを加速させるのである。
大企業のDX実装を支えるノーコード開発基盤
ドリーム・アーツが唱えるデジタルの民主化は、現場業務のデジタル化を超え、基幹システムの周辺領域にまで及ぶ考え方だ。ただ、その領域においてもデジタル化ニーズの拡大に対して、IT人材が大幅に不足している。そこで、ドリーム・アーツが提唱するのが、「MCSA」(Mission Critical System Aid:基幹フロントシステム)という概念と、それを具現化する「完全ノーコード」のアプローチである。
基幹システムは企業の「心肺」であり、標準機能に業務を合わせるのが原則だ。しかし、差別化の源泉となる戦略的価値創出領域まで画一化しては、企業独自の強みが失われる懸念がある。このジレンマを解消するのが、基幹システムと現場業務の間をSmartDBで補完するMCSAである。
なぜ「ローコード」ではなく、ノーコードなのか。IT人材の大半がベンダー側に偏在する日本において、プログラミング知識を必要とするローコード開発は、エンジニアリソースに依存するため最適解になりえない。現場担当者が、直感的に開発できる完全ノーコードであってこそ、要件定義から実装までのプロセスを劇的に短縮できる。これにより、「80%の完成度でリリースし、走りながら改善するという、現代経営に不可欠なアジャイルなプロセスが可能になります」(馬本氏)。
このアプローチで成果を上げている企業の一つがKDDIだ。同社では、経営の意思決定に直結する稟議書システムをSmartDBで刷新した。1万人超が利用するこの大規模システムの構築を主導したのは、IT部門ではなく、コーポレートシェアード本部や総務本部という業務部門である。複雑な承認ルートの自動化や他システムとの連携を実現し、意思決定の迅速化とデータドリブン経営を加速させている。
また、ドラッグストア大手ツルハホールディングスでは、2600店舗以上の情報を管理する「店舗マスタ」と「契約管理台帳」をSmartDBで内製化した。データの散在による不整合や、新リース会計基準への対応といった課題に対し、現場主導でシステムを構築することで、内部統制の強化と業務効率化を同時に実現している。これらの事例は、SmartDBが単なる業務改善ツールではなく、複雑な組織構造や厳格なセキュリティ要件を持つ大企業の大規模運用に堪えうる堅牢なプラットフォームであることを示している。
人材不足が進む日本において、現場のエンパワーメントなしに企業の成長はない。だからこそドリーム・アーツは、「NO デジ民、NO DX!」をスローガンに、デジタルの民主化を根づかせる活動に注力している。「デジタルの民主化なくしてDXなし、そしてイノベーションなし。それが私たちのキーメッセージです」(馬本氏)
現場からDXの実践者が次々と生まれ始めた時、企業は真のイノベーションを生み出す力を取り戻すだろう。
※ダイヤモンド社にて取材・掲載されたものを当社で許諾を得て公開しております。
2026-︎02-10 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー