意思決定プロセスに溶け込む組織的AI活用の実務アプローチ ダイヤモンド ハーバード・ビジネス・レビュー
ドリーム・アーツ 取締役 CTO サービス&プロダクト開発本部 本部長 石田健亮氏
サマリー:AIエージェントへの期待が先行する中、ドリーム・アーツが提唱する「DAPA」は、AIを意思決定プロセスに溶け込ませる現実解である。組織全体でAIを活用し、確実に成果を積み上げるアプローチを解説する。
生成AIの登場から数年、世界は「AIエージェント」への期待で沸き立っている。しかし、コンプライアンスと正確性が求められる大企業のビジネスプロセスにおいて、AIにすべての判断を委ねることは時期尚早であり、多くの企業は生成AIのPoC(概念実証)の段階で足踏みしているのが実情だ。この停滞を打破するカギは、AIに過度な期待を寄せることではなく、「人間とAIの協働」によって意思決定のスピードを高める、現実的なアプローチにある。本稿では、ドリーム・アーツが提唱する「DAPA」(DreamArts Practical AI)構想に基づき、日本の大企業が確実に成果を得るための実践的AI活用術を探る。
AIへの過度な期待と立ちはだかる現実の壁
企業のAI活用は新たな局面を迎えている。2025年以降、大手ITベンダーがAIエージェント技術を次々と発表し、「ホワイトカラーの仕事がAIに置き換わる」という言説も飛び交う。しかし、ドリーム・アーツ取締役CTO(最高技術責任者)の石田健亮氏は、「AIエージェントが何でもやってくれる、というのは現時点では非現実的です」と冷静に分析する。
特に大企業においては、契約交渉や部門横断的な合意形成といった複雑で暗黙知の多い業務領域が存在する。こうした領域でAIに全面的に頼るのは、高いリスクと心理的抵抗が伴う。「安心して利用できる」状態と技術的進歩の間には、依然として大きなギャップがあるのが実情だ。
AIの導入が進む一方で、組織全体の生産性向上に結びついているかという問いには、多くの経営者が首をかしげる。石田氏はこう指摘する。「個人レベルでの手間の削減は、組織全体のビジネスプロセスから見ればごく一部にすぎません。その部分で効率が上がったとしても、プロセス全体への大きなインパクトは期待できないのです」
また、「社内データを集約すればAIが価値を生む」という期待も、現実には空振りに終わるケースが少なくない。データは、活用される文脈や意思決定の構造が整理されていなければ、AIにとって意味を持たない。さらに、いくらPoCを繰り返しても既存の業務フローに組み込まれなければ、“PoC疲れ”がたまるだけだ。
では、組織全体の生産性を確実に高めるAI活用とは何か。その答えは、組織の意思決定プロセスそのものにAIを組み込む設計思想にある。
AIを意思決定プロセスに溶け込ませる「DAPA」
こうした課題認識を踏まえ、ドリーム・アーツが新たに提唱したのが「DAPA」(DreamArts Practical AI)というAI活用構想である。その核心は、AIを業務プロセスに自然に溶け込ませ、ユーザーにAIの介在を意識させないほど日常業務と一体化させることにある。
「DAPAの最優先事項は、プラクティカル(実践的・実務的・実用的)であることです」と石田氏は語る。
ドリーム・アーツでは生成AIの登場以降、アルゴリズムを含めた深い研究と考察を重ねてきた。そこから得た結論は明快だ。AIに正解を求めたり、重要な意思決定を委ねたりすることは難しい。一方で、要約や転記といった領域では、AIは極めて高い能力を発揮する。この「得意・不得意」の見極めこそが、プラクティカルなAI活用の出発点となる。
この構想が具体化したきっかけの一つは、ある顧客からの相談だった。
「稟議申請の差し戻しが多くて困っている。AIで解決できないか」。大企業における稟議申請の承認フローは複雑で、照合作業や添付資料の精査、さらに各種情報の転記など、業務負荷が多く、抜け・漏れが発生しやすい。結果として差し戻しが増え、組織全体の意思決定のスピードを鈍らせる。
DAPAのアプローチでは、この稟議申請プロセスの各段階にAIを組み込む(下図参照)。起案時には「入力アシスト」として過去データを参照しながらドラフトを自動作成し、確認時には「不備チェック」として必須項目の漏れや複雑なルールとの整合性を検証する。承認時には「要約・サジェスト」として、確認すべき観点の提示や過去の経緯のサマリーを提供する、といった具合だ。従来、過去の経緯を熟知したベテラン従業員に頼らざるをえなかったこれらの作業は、AIが最も得意とする領域である。
ドリーム・アーツの大企業向けノーコード開発基盤「SmartDB」(スマートデービー)には、DAPAのコンセプトに基づくAI機能が実装され、2026年4月から全ユーザーに提供を始める。
「AIを業務に組み込む際の主要な課題は、情報セキュリティと権限管理です」と石田氏は指摘する。SmartDBにはマスター管理、きめ細かなアクセス権制御、柔軟な承認経路管理などの機能が標準で備わっており、大企業に求められる厳格なセキュリティ要件に対応している。さらに、業務に必要な情報が格納されたデータベース(DB)と業務フローが一体的に構築されているため、この堅牢な基盤の上にAIを溶け込ませることが可能となる。
「プロンプトDB」がAI活用を組織に広げる
DAPAが特に重視するのは、「プロンプトのDB化」だ。プロンプトエンジニアリングを個人のスキルに依存せず、組織全体でのAI活用を促進するためである。石田氏はこれを「ビジネスAIの民主化」と表現する。
AI機能を搭載したSmartDBでは、AIの専門知識がなくても、業務に精通した「市民開発者」(現場の担当者)が試行錯誤を重ねながら、プロンプトの作成と使用するデータソースのマッピングを行える。作成されたプロンプトやマッピング定義は「AIプロンプトDB」として保存・共有され、自社業務に最適化されたプロンプトを組織全体で共同利用できる。
現場の担当者がみずからAIを使いこなし、プロンプト改善のサイクルを回しながら、より使えるAIとして「育てていく」。この循環こそが、ビジネスAIの民主化を加速させる。
経営層にとって気がかりなのは、AIを現場に開放することによるコスト増やガバナンス上の懸念だろう。この点についてSmartDBでは、不適切な入力や回答を防ぐ「フィルタリング機能」や、AIの利用状況を可視化して利用制御とコスト管理を行う「モニタリング機能」を実装している。「これにより、組織全体のセキュリティレベルを維持・向上させ、無駄な利用や予期しない課金を防ぎ、安心してAIを活用することができます」と石田氏は説明する。
DAPAは、将来的な自律型AIエージェント時代へ向けた不可欠なステップでもある。「AIを業務プロセスに組み込み、人とAIの協働体験を蓄積した企業こそが、次のイノベーションの波を捉えることができます」。石田氏はそう展望する。
真に自律的なAIエージェントの出現には、まだいくつもの技術的ブレイクスルーが必要であり、10年単位の時間を要するだろう。しかし、AIが得意とする領域が明らかになっている以上、その活用を見送る選択肢はない。過度な期待を避けつつも、生産性向上という成果を着実に得ていくべきだ。
現実に成果が出せる領域からAI活用を進め、成果を一つひとつ積み重ねていくこと。その経験値を高めていく過程で、「AIをどう使えばいいか」という現場の感覚が磨かれていく。
人間とAIの協働によって意思決定の速度を上げる――。この地に足の着いたアプローチこそが、日本企業が変化に適応し、競争力を回復させる原動力となるだろう。
※ダイヤモンド社にて取材・掲載されたものを当社で許諾を得て公開しております。
2026-︎03-10 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー