DX/デジタル化調査「 ITベンダー依存」の裏話 2022年1月24日

第1回:丸投げズブズブ群「ITベンダーとのお付き合いで得したこと」編

Introduction

2021年10月末、私たちドリーム・アーツは「ITベンダー依存」の実態について調査をしました。
(※まだお読みになっていない方はぜひご覧ください:https://www.dreamarts.co.jp/report/
このコラムは、調査レポートには掲載しきれなかった裏話やドリーム・アーツのメンバーが実際に体験した事例を交えて、本調査をもう一段深掘りできればと思い、調査プロジェクトメンバーの金井がお届けします。

1.なぜドリーム・アーツがITベンダー依存の調査を始めたのか。その想い

ITベンダーであるドリーム・アーツがなぜ「ITベンダー依存」に関する調査を実施するのか?疑問に思われる方もいるでしょう。ドリーム・アーツは大企業のお客さまへ、業務デジタル化(Webデータベース/ワークフロー)、企業ポータル、多店舗事業のコミュニケーションなどのプロダクト・サービスを提供しているベンダーです。これまで十数年、大企業と大手ITベンダー(SIer)のズブズブの関係を目の当たりにしてきました。そして、DXの潮流でいよいよ「企業によるITベンダー依存」が大きく問題視されるようになりました。経済産業省もDXレポートを通して「両者の関係性は低位安定に固定されている」と警鐘を鳴らし、デジタル庁は大手SIer剥がしに動き出しました。ITベンダー側も慌ててDXのコンサルティング領域を事業に取り入れたり、社内DXを推進したりと変革を始めていますが、長い年月を経て作られた既存の産業構造をトランスフォームさせるには相当な時間がかかり、ズブズブ関係はあちこちに残っているような状態です。

ドリーム・アーツは「デジタルの民主化」を掲げ、「大企業の自律」を支援するベンダーです。デジタル前提の時代、変革や自律のマインドがなければ日本の大企業の未来はないと考えています。(大企業の未来がなくなれば、私たちも共倒れです…)
本来ITユーザーである企業とITベンダーは上下関係(発注者と受託側という固定的な取引関係)ではなく、「対等なパートナー」であるべきです。現状のズブズブ関係を続ければ、いずれ両者ともデジタル競争の敗者になることは間違いありません。
おそらく大企業のIT決裁者の皆さんはこの危機を十分わかっているはずです。このままではマズいと思っていてもなかなか一歩が踏み出せない。という気持ちもあるでしょう。
私たちは、IT業界にいる者としての危機感、そして、なかなか一歩を踏み出せない大企業の皆さんの背中を押したいという想いもあって今回の調査を実施することにしました。

調査をおこなう前にプロジェクトメンバー内で今回の結果について予想を立てていました。最近の「内製化ブーム」もあり、ベンダーに依存せずDX/デジタル化に取り組む企業の成功例は増えています。また、私たちが普段お会いするのは危機感を持って本気で変革を考えているお客さまが多いため、少しずつ大企業の考え方や行動にも変化が見えてきていると肌で感じていました。
しかし、全体としてはまだそこまで進んでいるとは思えず、ベンダー依存は想像以上に根深く、「わかっちゃいるけどやめられない状態」で、ズブズブ度は相当高いのでは、と予想していました。
コンプライアンスに関わる質問も混ぜ込んだので、どこまで本気で答えてくれるか心配しつつ、調査を開始しました。

さて、その結果はどうだったのでしょうか…?

2.本当にヤバい「ズブズブの実態」が浮き彫りに!

実際に調査をしてみると、なんとまぁ予想以上に酷い実態、企業とITベンダー間のズブズブ関係があらわになり、驚くと同時にガッカリもしました。なかには「これは笑い話か?!」と思うような実態も見えてきました。
まさに「ヤバい実態」です。
今回の調査対象者は、大企業(ITベンダー除く)にお勤めのITシステム決裁者と助言・意見を言える立場の方に限定しました。ですので、皆さん内部事情には相当詳しく、ユーザー企業の本音が見えました。

まず、外部ベンダーに頼っているかどうかを聞いた結果です。全体感はこちらのグラフ。ベンダーに頼っていると自覚しているのは6割ほどでした。

【グラフ1:ズバリ、あなたは外部のベンダーに頼っていると思うか︎】

グラフ1:ズバリ、あなたは外部のベンダーに頼っていると思うか︎

誤解の無いようお伝えしておくと、「頼ることは悪ではない」ということです。
優れた外部ベンダーは頼るべきです。「丸投げ」はベンダーロックインされるのでもちろんNGですが、最新技術の知見、他社事例も把握したシステム開発のノウハウ、第三者としての鋭い切り口は外部でなければ見えてこないものです。なので、この数字は単純に依存関係を示すものではありません。

実は調査レポートには出していないのですが、上記設問には自由記述欄を用意していました。そこに記載された内容からは、なぜ頼っていると思うのか、それぞれの考えが読み取れました。
「頼っている」と答えた人の中には「専門的な知識が得られる」や「新しい発想やノウハウを得られる」などポジティブな意見も多く、これは健全な頼り方だと感じました。逆にネガティブなご意見で多かったのが「費用が安く済む」「コスト削減」でした。これはベンダーを「労働力」としてしか見ていないということ。選定基準は「安いこと」が優先なのでしょう。ベンダーの方も「人月換算(要は “時給”です)」はそろそろ終わりにしたい、そして「付加価値」で勝負したいですよね。しかし数十年前に構築されたこの産業構造を変えるには相当の覚悟とエネルギーが必要です。闇は深いなと感じます。

ポジティブな頼り方/ネガティブな頼り方

全ての大企業がズブズブなわけではありません。自律を目指してトランスフォームしている大企業も存在するのに、それを全て「ベンダー依存」と一括りにするのは乱暴だなと。そこで、ITの利用傾向や特定SIerとの契約期間などのさまざまな項目から重み付けをして6つの群を定義しました。

※簡単に表現すると、このような分類です。

1. オールドタイプ群:IT投資はほぼ既存システムのメンテナンス、オンプレ運用中心
2. ニュータイプ群:新規IT投資が多く、クラウド運用中心
3. 内製群:全社でシステム内製化推進。IT実作業はほぼ社内で完結
4. デジタルの民主化群(デジ民群):業務部門によるシステム開発を実施。IT実作業はほぼ社内で完結
5. ズブズブ群:同一ベンダー長期契約、新規ベンダー0、ベンダー変更皆無、ベンダーが実業務9割以上
6. 準ズブズブ群:ズブズブ群ほどではないが条件4つのうち3つ該当

IT利用傾向からの分類/ベンダー依存度からの分類

「ベンダーとお付き合いする上で得したことはあるか」という質問の回答を、試しにこの6つの群でクロス集計してみました。群に分けて比較すると違う景色が見えてきました。この回答結果だけでコラム1本書けるほど驚きネタが満載です。

【表1:あなたはベンダーとお付き合いする上で得したことはあるか】

表1:あなたはベンダーとお付き合いする上で得したことはあるか

「基本的にすべてお任せで仕事を進められるので、仕事が楽だ」の項目について、「ズブズブ群」は9割近くが“はい”と答えました。二度見しました。9割…ほとんどです。対して「デジ民群」は5割強。お任せ具合はさまざまで単純に判断できるものではないですが、関係性の傾向には大きな差が出ました。
「デジ民群」はそもそも自律…自分の業務を自分で考え、自分で良くするという思いが強いため、根本のマインドが異なるのでしょう。会社全体のDXのスピードにも差が出てくることは間違いありません。

また、少し意地悪かなと思いましたが、「トラブルを無事に解決できた」と「トラブルの責任をかぶってくれた」という二つの項目を出してみました。調査する前に私は「『トラブルの責任をかぶってくれた』に“はい”と回答する人はほとんどいないのでは?」と思っていました。が、蓋を開けてみたらズブズブ群は6割弱が“はい”の回答(驚)。そしてやはり「内製群」「デジ民群」との差が開いたのです。
この結果には、あるIT系のメディアの方も「そんなことがあるんですか!?」と驚いておられました。
このような悪い意味での「持ちつ持たれつ」の関係が、両者を依存状態にさせ落ちるところまで落ちていくのですね。

もう一つ驚くのが、「ベンダーから転職のオファーや引退後のポジションの提案があった」という項目にズブズブ群の63%が“はい”と答えていたことです。これは予想以上の数値でした。最近、ITベンダーからユーザー企業への転職は多い印象ですが、逆の形がこんなにあるとは知りませんでした。「ニュータイプ群」の5割の方が“はい”と回答したのは、クラウドベンダーをよく利用していることが大きいでしょう。クラウド業界は人材の流動化が進んでいるので、健全な新陳代謝の可能性もありますね。

このように表1の質問だけで、ベンダー依存度が高い「ズブズブ群」と、自律を目指す「内製群」「デジ民群」との間にはお付き合いの仕方やマインドについて大きな違いが見えました。

3.ITベンダー依存の次は「コンサル依存」?!

そしてこのDXの波を受けて大企業は、ITベンダー依存のさらに先、次は「コンサル」にも依存し始めているようです。なかでもIT関連よりもビジネス関連での市場が伸びているようです。ビジネスの中枢まで他者に依存するのか!と驚くばかりです。

IT利用傾向からの分類/ベンダー依存度からの分類

※日本経済新聞 2021年12月5日の記事:教えてコンサル、あれもこれも日本企業に「依存症」

「いい加減に自分の頭で考えましょうよ」と言いたいところですが、そんな簡単にはトランスフォームできません。両者にはさまざまなジレンマが存在するのです。

この依存関係を打破・変革できないジレンマについて経済産業省はこう指摘しています。
企業側は、目先の業績が好調なので、変革に対する危機感のなさ。そして人材育成のジレンマ。
ベンダー側は、現在の受託型のビジネスモデルを崩すことでの売上規模縮小、結果自分達が不要になってしまう、というジレンマ。 これを打破するためには「それぞれの経営者のビジョンとコミットメントが必要不可欠」とのことです。

対するITベンダー側の心の中を覗いてみると「この会社の経営層はIT・デジタルのことを全くわかってないなあ、知ろうともしないのだな、全然本気じゃないなあ。まだまだ末長くお付き合いできそう(=搾り取れそうだぞ)」というのが本音なのです。経営層が危機感を持って動いているか、その本気度はベンダー側へは透けて見えています。

弊社のお客さまのなかでも、変革に成功している企業様は経営層の強いコミットメントが必ずあります。
そんな経営層の想いはビンビン私たちにも伝わってきます。そして、私たちも「それならこちらも本気で挑もう!」とエンジンがかかるのです。

4.依存から自律への道のりは険しいが、今こそ動き出すとき

「ラクしたい」と思うのは人間の性ですが、ラクの方向を間違えると「依存」になり、結局ハマります。

私どものお客さまの中でも、ベンダーロックインの課題を認識しつつ、そこから脱却するために試行錯誤されている方も多くいらっしゃいます。
某メーカー様は、もともとあった「内製の文化」を復活させようとしているとおっしゃっていました。基幹システムの内製は数年かけて検証を進めるためまだ時間がかかりそうとのことですが、周辺業務や現場業務はノーコードツール(SaaS)をうまく利用してスピーディにデジタル化を進めていくとのこと。依存から脱却し自律するためには「マインドの変革」が必須だともおっしゃっていました。(こちらの企業様の試行錯誤の様子はこの連載の中でまた紹介させていただきます)

どうしても自社だけでは自律するのに時間がかかる、何から始めれば良いかわからない、ということであれば「健全なITベンダーへの頼り方」は存在します。弊社のように大企業の自律を支援し変革の伴走をするITベンダーも存在します。(少し自社の宣伝になってしまいました。が、弊社だけでなくさまざまな形で自律支援や付加価値で勝負するITベンダーは増えています)
モヤモヤするなら、まずは問い合わせてみるなど、アクションしてください。
ドリーム・アーツは変革者を応援します!!

ITベンダー依存裏話。次回は【知名度重視のズブズブ群「ITベンダーの選定基準」編】です。お楽しみに。

大企業の“ヤバい”ITベンダー依存の実態

大企業の“ヤバい”ITベンダー依存の実態

DX推進の際にパートナーとなるITベンダーに焦点を当て、大企業の「ITシステム決裁者」1,000名を対象に、「ベンダー依存」に関する調査を実施した。大企業がITベンダーとDXを推進する際の重要ポイントを探る。

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プロフィール
金井 優子
株式会社ドリーム・アーツ 社長室 コーポレートマーケティンググループ ゼネラルマネージャー 金井 優子(かない ゆうこ)

大手SIer出身。データ分析・活用をきっかけにシステムエンジニアからマーケティングに職種をチェンジ。現在はコーポレートマーケティング業務で自社のブランディング確立に奮闘中。

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