DX/デジタル化はじめの一歩 2021年7月19日

DX/デジタル改革推進者を支える
「やってみなはれ」な企業文化

DX/デジタル改革推進者を支える「やってみなはれ」な企業文化

全社をあげてのDX/デジタル改革にはリーダー=改革推進者の存在が欠かせない

さて、いよいよ最終回はリーダー「改革推進者」にフォーカスを当てる。
DX/デジタル改革の進め方はさまざまだが、どのような場合でも「改革推進者」がスムーズに進められるか否かでその質もスピードも変わってくる。
最終的に全社がトランスフォーメーションするためには、相当なパワーが必要になる。
では、トランスフォーメンションに成功する企業と失敗してしまう企業の間には、改革推進者を取り巻く環境にどのような差があるのだろう。

デジタル改革推進者が一番苦労する企業文化と風土

日々、改革推進者の苦労を目の当たりにするなかで、最初は勢いがあったが、途中で失速してしまう例が後を絶たない。改革推進者の力量によるものもあるかもしれないが、改革推進者自身がコントロールできない周りの環境による苦労もかなり多い印象だ。
改革が進まないパターンの中で特に難儀であると感じるのは、改革推進者が新しい取り組みをスタートしようとしても、その土壌となる企業文化・風土が追いついていない例だ。
連載の第3回でDXの本質は「人と組織、企業文化」にあることをお伝えしたが、「失敗を許さない企業文化」では、おそらく改革は無理だ。
このような企業文化を崩すのは経営陣の仕事だ。経営陣が「やってみなはれ」の号令をかけない限りは変わらない。失敗=マイナスだった評価制度を、失敗=チャレンジと認識しプラス評価に変えることも大事である。
改革の過程において失敗はつきものだ。人間は失敗から大きく学ぶ。その失敗に目を背けずしっかり向き合い要因分析し、次に生かそうとする姿勢も改革推進者には求められるが、それを許容する企業文化が根底に必要だ。

現場の抵抗勢力も厄介なものだ。特に日本企業では「現場の声が大きい」ことも多く、このような環境で苦労している改革推進者もよく見る。現場は短期的な目標・成果を求められることも多い。日々忙しい中で新たな挑戦はしづらく、反対の声が出るのも無理はないだろう。実際に反対の声をあげずに渋々やる現場もあるが「やらされている感」満載で動きが遅く、結局改革が進まない要因となってしまう。
実はこの問題にも、企業風土・文化が絡んでいる。チャレンジすることをよしとしない空気の中では、誰も進んで新しいことに取り組もうとしないだろう。失敗してもそこから学べば評価されるという環境があれば社員は自ずと動く。現場は「真面目」なので、心理的安全性があって自身が腹落ちすれば、ものすごいパワーを発揮する。

それ以外にも改革が進まない要因はさまざまだ。だが、一番根底にあるのは企業文化なのではないだろうか。根が深い問題ゆえ、即座にここに手をつけないと本当に未来はない。
次に紹介するのは、変わることをよしとする企業文化・風土があったからこそ、一度失敗しても「デジタルの民主化」の一歩が踏み出せた改革推進者の事例だ。

一度は失敗する改革。「やってみなはれ」精神で
再び立ち上がる改革推進者

今回の主人公は、とあるメーカーの人事部マネジャー。社員数は数万人という大企業だが、全ての人事申請書類は「紙」だった。時間のかかるアナログプロセス、書類内容の目視チェック、紙紛失のリスク、無駄な保管コスト、探すのも一苦労。「紙業務」と一言で表現される裏には想像を絶する悪オペレーションが潜んでいる。
数万人規模の大企業であるということは、それ相応の大学を卒業した優秀な人材が入社しているはず。マネジャーは、その優秀な人材が紙業務でヒィヒィしているのを見て、なんと非効率でモチベーションの上がらない仕事を与えられているのだろう、とがくぜんとしたという。
しかし、この会社の良いところは「やってみなはれ」精神があることだった。
実は、マネジャーは数年前に「デジタルの民主化」におけるチャレンジをしたことがある。この非効率な状態をなんとかしようと、RPA(Robotic Process Automation)のシステムを導入したのだ。「ロボット開発はITスキルがなくてもできる」といわれており、いけると思った。しかし、現場は動かなかった。日々の仕事をしながら専門外の知識を学び開発をするのは、とてもハードルが高いことだったのだ。
彼は大きな挫折を感じた。だが、その失敗に目を背けず、何が原因だったかを考えた。彼の出した結論は「1人で頑張りすぎた」ことだった。自分の尺度でものごとを判断しすぎ、空回りの状態だったと反省したのである。
そして「デジタルの民主化」への2度目のチャレンジの際は「現場に任せること」にした。現場の「自律心」を育てることが近道だと思ったのだ。そして、早い段階から経営層やIT部門に意見を聞き意識的に巻き込んでいった。もちろん反対意見も出たが、丁寧に説明をして納得してもらった。反対していた人は最終的には強力な支援者となった。そして、現場をリードしてくれる頼れるパートナーも見つけ伴走してもらった。
アジャイル(俊敏)的な開発手法で素早くリリースし、ユーザーからのリアルな声を聞き、それを現場が体感し、何かを感じて腹落ちしてから次のステップに進めることを最優先とした。とにかく失敗しても、メンバーが学んで次につながればよしとしたのだ。そして経営陣もそれを許容した。
さらに素晴らしいのは、このプロジェクトと評価制度を絡めたことである。このデジタル化の取り組みに対して達成したことは、本人の評価に直接反映された。失敗も込みでチャレンジすることを評価したのだ。メンバーのモチベーションは上がり、その目に輝きが宿ったという。
プロジェクトが数カ月経ち、マネジャーは日々メンバーが業務をロジカルに捉えようとしていること、自分の業務に対して自律的・意欲的になっていることを肌で感じ、成功への一歩が踏み出せたことを確信したのだ。
この瞬間、彼は単なるマネジャーではなく、真の「改革推進者」になった。

改革推進者

改革推進者を盛り立てる環境を周りで作る

この話を改革推進者の方や現場メンバーの方々から直接伺った際、私は胸が熱くなった。彼は一度失敗してしまった要因を自らの中に見つけたのだ。なかなかできることではない。経営陣のせいだ、現場のせいだ、ベンダーのせいだ、と他責にするのは簡単だが、結局自分に返ってくるし、そこからは何も生まれない。彼はそれを分かっていた。経営陣はそんな彼の姿をみて、2度目のチャレンジを「やってみなはれ」精神で精一杯バックアップしたのだ。失敗を恐れない文化、真の意味で人を育てることが土壌となっている企業の底力を垣間見た。前回の失敗を越えての取り組みに、メンバーも真摯(しんし)に向き合った。「現場に任せる=メンバーに成長してほしい」という改革推進者の思いはきっちりメンバーに届いた。これも改革推進者からメンバーへの「やってみなはれ」の精神だったのだ。実際、自分でやってみて失敗しなきゃ分からない、失敗して初めて気づくことがある。そんな企業文化・風土を現場メンバーにも伝えたかったのだろう。そして、そんな改革推進者の願いに現場メンバーは応えた。今まで「当たり前」と深く考えずに言われたことをこなしていたメンバーが自分の業務をロジカルに考え、さらに「なぜこうなっている?」と疑問を持ち無駄に気付き、知らず知らずのうちに成長していたのだ。
まずはやってみる、失敗から学んで成長する。その思いを周りに届け、その思いを受け取った周りに支えられ、さらにそのことに感謝をする。そんなエネルギーが循環しているのを感じた。このエネルギーの循環がしっかりと企業文化を形作っているのだ。
チャレンジを許容する企業文化という土台がなければ、いくら優秀な改革推進者がいたとしてもDX/デジタル改革の成功はないだろう。

さて全6回の連載もこれで終了。
改革推進者が1人で頑張るには限界がある。ましてや数万人規模の大企業は経営層の理解がなければ改革できない。そして外部パートナーも重要な存在となる。言われたことだけをそのまま実行するだけの存在は「パートナー」とは言えない。改革推進者を応援する真のパートナーを見つけよう。弊社もそんなパートナーの一社として、改革推進者に伴走する立場でありたい。
改革推進者の皆さまに大きなエールを送る。頑張りましょう!

(株)共同通信社 b.(ビードット)より転載
※本記事は、2021/6/12時点で共同通信社の外部メディアに公開された記事を、許可を得て転載しています。

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プロフィール
金井 優子
株式会社ドリーム・アーツ 社長室 コーポレートマーケティンググループ ゼネラルマネージャー 金井 優子(かない ゆうこ)

大手SIer出身。データ分析・活用をきっかけにシステムエンジニアからマーケティングに職種をチェンジ。現在はコーポレートマーケティング業務で自社のブランディング確立に奮闘中。

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