2020年5月19日
CWOの前川が綴るコラム -現場からの「協働革新」-


ハンコ文化の裏側にあるもの

コロナの影響でテレワークを余儀なくされた現在の状況で、ハンコを押すために出社しなくてはならない日本のハンコ文化が社会的な問題になっている。

社内文書にハンコが必要とされている理由は、各種届出の内容や稟議決裁などに関わる意思決定が、正しい権限を持った人の行為であるかどうかの「証跡」としての意味を持たせているからであり、ハンコという物理的な制約を課すことによって、間違いなくその人=正当な権限保持者の意思表示であることを確認していると言える。つまり届出書類の内容や稟議決裁における意思表示が正当な権利者もしくは責任者の行為であることが確認できるならば、必ずしもハンコに依存する必要はない。

むしろ簡易的なハンコが使用されることのリスクの方が高く、ワークフローシステムの導入によってシステム的な権限管理を行い、電子的な記録を取っておく方が内部統制上のリスクを低減できる。

特に上場企業のような大手企業では、不正防止の観点から高度な内部統制システムの構築が求められており、業務効率を上げるという面からも、これを機会に日本のハンコ文化を見直し、IT技術を活用した紙文化からの脱却を各企業で取り組む必要があるという議論はもっともなことである。

しかし、これだけITが普及した日本で、どう考えても紙である必要がないような社内文書ですら、紙とハンコの世界が残っているのは何故だろう?

それには様々な理由があるだろうけど、その一つとして、もしかしたら押印という手続きが、単なる業務手続きとしての承認というよりも、承認者である上司と申請者とのコミュニケーション手段の一つであったのではないかと思う。

承認する上司は、ハンコを貰いに来る申請者の様子から、その状況や緊急度、担当者の熱量などを読み取ることで判断の材料としていたり、押印する際にも電子承認のエビデンスとして残るようなテキストではなく、微妙なニュアンスで励ましや注意点などを伝えたりすることがあったのではないだろうか?

また、一般的に人が何かを判断する際に、論理的なことを判断材料にしながらも感情的な要素で決定を下すとも言われているので、承認者にとっては無感情に承認ボタンを押すということへの抵抗感があるのかも知れないし、承認者である自分の存在感が相対的に薄まることへの反発があるのかも知れない。

それが良いか悪いかではなく、現実として、かつて日本の会社が終身雇用制であった時代の極めて人間臭く、お互いにニュアンスを読み取り合うという、ある意味では古き良き日本のやり方だったようにも思えるのである。

僕が社会人になったばかりの35年も前の昔々に、会社の先輩に聞いた「斜めハンコ」の話を思い出した。

稟議書の右上にある押印欄にずらりと並んだハンコを見て、先輩が「まっすぐ押してあるハンコとちょっと斜めに押してあるハンコがあるだろう。それには意味があるのが分かるか?」と…

「ちょっと斜めに押してあるハンコは、自分は完全に納得はしていないけど、諸般の状況を鑑みて承認だけはするという意味なので、この人達は個別にフォローする必要があるんだよ」と、新入社員の僕にとっては、ほとんどオカルトのような処世術を教えてくれたものである。

そんな与太話をしていた時に、社長の山本が「申請も動画でやればいいんじゃない?」と言った一言には、僕もピンと来た。

そうだ、会議だって飲み会だってTEAMSやZoomでやっている状況である。もしも承認プロセスでコミュニケーションが必要であるなら、申請者が動画のコメントに申請書を付けて起案し、承認者も動画でコメントを返す仕組みにすれば良いのではないか。それによりテキストだけでは伝えにくいニュアンスの共有をある程度補完できるとすると、実に日本的であり、他にありそうでない面白い発想ではないかと。

ただでさえ、我々の製品であるSmartDBでは「意思決定の在庫削減」というテーマで、スキマ時間を活用したスマホアプリでの承認や、「すべての業務を手のひらから」というテーマで、スマホを業務起点とするSmartDBクライアントの開発に力を注いでいるところである。

それならば、スマホで自撮りした動画に申請書を添付するような形で業務プロセスが開始できるようにしようぜ。という具合に議論が一気に盛り上がったので、急遽SmartDBの開発計画に動画コメント機能を入れ込んでもらって、なんとか夏ぐらいには一発目を世に出せるようにと、現在鋭意開発中なのであります。

まだ企画・開発中の段階なので、かなり勇足ではありますが、SmartDBがこれからも進化し続けるクラウドサービスであることの一例として、開発現場の「ノリ」を紹介させていただきました。

なるべく早く実際の動きを見てもらえるように頑張ります。僕的には子供の頃に見たサンダーバードで壁の写真が喋るイメージなんだけど、それは恐らく誰も共感しないでしょう。

プロフィール
  • 株式会社ドリーム・アーツ
  • 取締役 執行役員 兼 CWO(チーフ・ワォ・オフィサー)
前川賢治(Kenji Maekawa)
株式会社ドリーム・アーツ
  • 大型汎用コンピュータ向けソフトウェア製品の輸入商社である株式会社アシストにおいて、製品開発を担当。 1996年にドリーム・アーツ設立に参画。
  • 本コラムでは、バブル後の大不景気を経て企業体質も健全化に向かっている現在、より現場力を高めるために「人」の「協業」をいかに支援し、革新していくべきかを考えます。