生産性を上げる会議術 2019年4月23日

第4回:ビジョンを決める会議、どうやりますか?

第4回:ビジョンを決める会議、どうやりますか?

「これからはAIだ。うちもAIで新規事業をやるぞ。じゃ、あとはお前たちに任せた。」

こんな号令を聞いたことがないだろうか。
ひと昔前はAIの部分に「IoT」や「スマホ」が入っていた。偉い人の仕事の振り方は、大体こんなものだろう。

号令を出すのは簡単だが、この号令で実際に動く担当者は大変な目にあうことになる。特に、既存事業から突然引き抜かれた新規事業担当者は、なにをすればよいのかわからず、これまで既存事業でうまくいっていたやり方をそのままやってしまいがちだ。

たとえば、現状の商品の課題分析をして、その改善版の商品を企画したり、なんの前提も置かずにアイデア出しをして、自社の強みとはまったく関係のない単に「よさそうなアイデア」を提案したりする。

事業の方針が明確で、どこに向かえばいいのかがわかっていた既存事業では、こういったやり方でも成果が出せたのかもしれない。
しかし、ビションも戦略もない状態でアイデアを出しても組織は動かせない。
また、投資の意思決定者や関係部署の合意も得られていない状態では、いくらいいアイデアを出しても、だれも協力してくれず、なにも実現できない。さらには、言い出しっぺの偉い人からもハシゴを外されてしまうことすらある。

まずはビジョンをつくり、それについて合意・共感を得ることが先決だ。
だが、それは多くの新規事業担当者の悩みでもあり、簡単なことではない。

筆者も何度か新規事業を担当させていただいて、似たような悩みを抱え、自分なりのやり方を試行錯誤してきた。
そんななか、上記のような「正解のない問題」を扱うために作られた「視覚会議」というソリューションを知り、その開発者に取材をさせていただいた。株式会社ラーニングプロセス代表取締役の矢吹博和氏だ。

「視覚会議」とは

「視覚会議」とは、可視化を軸に全員が納得して行動できるシナリオを作る会議メソッドだ。
基本となる会議のプロセスとツールが揃っており、ビジョンの形成、アイデア創出、事業創造など会議の目的に応じて、それぞれメソッドが準備されている。
また、プロセスとツールだけではなく、それを運営するファシリテーターの養成講座まで準備されているという。

筆者が特徴的だと思ったのは、緻密な運営マニュアルやツールが整備されており、それに従ってファシリテーションをすれば、だれでも再現可能という点だ。

よくある社外研修では、受けたその日は感化されるのだが、翌日会社に戻って他の人にやり方を横展開しようとするもうまく伝えられず、組織のやり方を変えることができずに終わってしまう。
また、しばらく経つと、自分も細かいやり方を忘れて結局元に戻ってしまう。

その点、ここまでマニュアルとツールが揃っていれば、人にも伝えられるし、自分でも忘れずいつでも再現できる。

最近では、新規事業開発部門だけでなく、法人営業部門などにも採用されるケースもあるという。
これまでの法人営業は、顧客の課題を聞き出して、それに対する提案をすることが多かった。しかし、今は外部環境や技術の変化も早く、顧客もなにをやるべきか判断できていないようなケースも増えてきた。こんなときは、まず顧客とビジョンを描きなおして握るところから始めなければならない。そこで、営業担当者が顧客とビジョンを握る手法として、視覚会議が導入されるケースもあるという。

では、ビジョンを描き、合意形成をするためにはどうすればよいのか。
矢吹氏に、基本的な考え方と、今すぐ真似できるテクニックを教えていただいた。

ポイントとなる考え方

まず、ポイントとなる考え方が「バックキャスティング」だ。

(「視覚会議」のホームページから転載)

「バックキャスティング」とは、未来のあるべき姿から逆算し、そこに到達するステップを探るという考え方だ。
いまある課題を洗い出し、分析をしても、いまより少し改善しただけのビジョンしか描けない。それに対し、あるべき姿から考えれば、現状に囚われず、高い目標を設定することができる。
また、未来志向で考えることで、過去の事実や経験に囚われる必要がなくなり、だれでも公平に発言ができ、ポジティブな発想が出やすくなるといった効果もある。

今すぐできるテクニック

未来のあるべき姿というと、なにかいいことを言わないといけないような気がして、ハードルが高い。たとえば、「10年後のあるべき働き方とはなにか」と言われて、それをいきなり理路整然と説明できる人は稀だろう。

そんなときに役立つのが、まずは「単語で書き出す」ことだ。テーマを聞いて、まず思い浮かぶキーワードを個人でリストアップしてみる。いきなり文章で説明をしたり、絵を描いたりするのは簡単ではないが、思い浮かぶキーワードを挙げるだけなら、だれでもすぐできる。

キーワードを出せば、それがどういう意図で挙げた言葉かを聞くことで、自然と未来志向の会話が始まる。

このときのポイントは、いきなりみんなで議論をし始める前に、個人で作業をすることだ。いきなり議論を始めると、視点が偏る上に、同時に一人しかしゃべれないので、効率が悪い。一度個人でキーワードを洗い出して、後から共有すれば、こういった問題を防げる。

まとめ

今回は、ビジョンを描き、合意形成をする方法を取り上げた。
ポイントとなるのは、未来志向で考える「バックキャスティング」と、議論し始めるまえに「単語で書き出す」ことだ。

最近では、企業の新規事業やイノベーションへの投資熱も高まっており、ビジョンを描き、それを形にしていく力が求められる機会も増えてきたように思う。その際、今回のポイントを参考にしてみてはどうだろうか。

(株)共同通信社 b.(ビードット)より転載
※本記事は、2019/4/23時点で共同通信社の外部メディアに公開された記事を、許可を得て転載しています。

プロフィール
伊勢川 暁
株式会社ドリーム・アーツ サービス&プロダクトデザイン本部 InsuiteXグループ マネージャー 伊勢川 暁(いせがわ あきら)

2012年にドリーム・アーツに入社。
入社以来、企業におけるスマートデバイス活用や製品の企画・開発を担当。
ファーストリテイリング様向けの新規アプリ開発も手がけている。
現在は「InsuiteX」の開発に従事。

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