2016年8月22日

働き方を考える − 現場社員の方とのお話|コンサルタントの眼

暑い日が続きますが、皆さま、いかがお過ごしですか?

今回は、プロジェクト現場ではなく、社員の方が働いている現場からのお話をさせていただきます。

このところ、“お客さまの声活用”ですとか、“業務の標準化”、また“働き方改革”などのプロジェクトをしておりますが、そもそも、働き方を考えるうえで私自身教訓になったお話です。

アルバイトでもできる仕事か?

最近、ある交通機関の現場社員の方とお話をする機会がありました。夏休み期間中のお忙しいところでしたので、立ち話でしたが考えさせられる内容でした。

「夏休みが特別ということではなく、最近はずっと忙しい状況が続いている。今やっているお客さま対応業務が必要なことはもちろん理解しているが、別にアルバイトでもできる仕事ではないかと、ふと思ったことがある。この会社に入って自分はなにをしているのだろう?と。それ以来自分はこの疑問に答えを出せずにいる。

実は、こちらの会社の本社企画部門で“働き方改革”を推進されている方に昨年お話を伺っており、そのとき「現場社員はロボットみたいで自律性がない、これを変えていくような取り組みをしたい」その方はそう話されていました。

結局弊社との取り組みはスタートできなかったのですが、今になって思うと、この現場の方が抱いた疑問には“働き方”を考えるうえで重要なヒントがあると思うのです。

お客さまにとっての“真実の瞬間”

顧客ロイヤリティで語られる“真実の瞬間”という言葉をご存知でしょうか?

顧客を感激させる、あるいは失望させる決定的なシーンを指すもので、それを明確にして全社で共有することが顧客ロイヤリティを高める活動の第一歩である。
ロブ・マーキー,フレデリック・F・ライクヘルド, アンドレアス・ダルウィーバー(2010)『「顧客の声」を全社に浸透させる』Diamond Hervard Business Review.

と専門家は述べています。

交通機関であれば、

  • お客さまが乗り遅れてしまったとき
  • 大事なお荷物を紛失されたとき
  • お体の具合が悪くなったとき

いつもの“アルバイトでもできる”仕事ではありません。お客さまとのやり取りにはさまざまなパターンがあると思います。やり取りの良し悪しによりお客さまは、感謝されることもあれば、がっかりされることもあるでしょう。

乗り遅れにしても、交通事情や乗換時の問題などお客さまにはどうにもできない事情があったかもしれませんし、紛失も実は盗難であったかもしれません。

たまたま現場に居合わせた社員の個人としての力量、采配が解決の行方を左右します。マニュアルや訓練があるとはいえ、普段からの心持ちがなければ、お客さまのお困りの事情をスムーズに理解することもできないでしょう。子どもさんもいれば、お年寄りの方も、ハンディキャップのある方もいらっしゃいます。気が動転していて筋道だったお話ができないこともあることでしょう。

社員ならではの仕事

実際、どのように対応されているのかと思い、後日、先ほどの現場社員の方にお聞きしました。

「お話をお伺いする際は、お客さまの年齢、身なりから、ご相談についてだいたいの想像をします。お声がけいただいた場所やそのときの状況なども手がかりにします。自分自身の体験もですが、先輩や同僚の経験も参考になるので普段からこういったことには努めて関心を持つようにしています。」

オーバーに言えば五感をフル活用し、さまざまな手がかりからお客さまの事情を理解しようとされるのですね。過去の経験から、お客さま自身も気付いていない可能性も含めて。上司に言われるでもなく、主体的にこの現場社員の方は問題への備えに取り組まれているのですが、それは、お客さまの身になってお困りごとを一緒に解決していこうという気持ちが根底にあるからでしょう。“アルバイトでもできる”という仕事への疑問を持ちながらも。いや、おそらく問題意識の高い方だからこそ、変化に乏しい業務に関しては“アルバイトでもできる”と思ったのであって、本当は“アルバイト”にできるようなレベルの仕事をしているのではなく、よもや決してロボットでもない、そこには一人の個人が会社を代表してお客さまの問題解決にあたった真実があります。

変化に乏しい繰り返しの業務も「仕事」ですが、突然訪れる個人として、現場社員として本領発揮が求められるシーンに対する心持ち、それはお客さまにとっての真実の瞬間につながるもので、それこそ会社が本来目指すべき社員意識なのではないかと、今になって思います。

現場の働き方とは?

“本社の捉え方は現場の働き方を考えるうえで踏み込み不足である”、そのことがもし1年前に私が理解できていたら良い提案ができたと悔やまれるところです。“自分自身の体験”、“先輩や同僚の経験”、こういったことは文書化し共有可能です。“真実の瞬間”も全社で共有することが可能です。こういった情報に日ごろから触れられるように、社内の情報共有に仕組みを変えることも難しくありません。IT業界では(皮肉にも)ロボットやAIという言葉が流行りですが、顧客の“真実の瞬間”という観点で現場社員ならではの働き方を知り、社員に共有するという地道な取り組みから始めても遅くはありません。

“働き方改革”という言葉が花盛りですが、ご紹介させていただいた反省もふまえ、謙虚に現場社員の方々の仕事に根ざした取り組みを我々は行っていきたいと考えております。

今回のコラムは、黒井千次 著『働くということ』 4章〈仕事が自分の中に入るまで〉で取りあげられている、ある国鉄職員の所感を現場社員の方に紹介し似た経験がないかという会話から発展したものです。

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