2007年9月30日
本音で語る内部統制対談

本音で語る内部統制対談 〜形骸化させないための攻めと守りのベストバランス〜

2008年度からの施行に向け、内部統制対応に日々奮闘している企業様も多いのではないでしょうか。

本特集では、様々な企業の内部統制に携わる牧野二郎氏に、内部統制の実態について、本音で語っていただきました。

きれいな絵を描いているが、心が入っていない

Q1.現在の企業の内部統制に関する取り組みについて、どう思われますか?

牧野氏:

企業の内部統制室なり、本部の皆さんが作る統制のスケジュールや内部統制で確立するべきものは、チェックリストとしてすごく良くできています。問題はそれが活きていくのか効果を生むのかどうか。この評価の指標をきちんと持っていない企業が多い。また、指標の元となるべき内部統制を実施する目標や戦略を持っていない。実はきれいな絵を描いているが、心が入っていないケースは多く見受けられます。

吉村:

企業が追い込まれていて、一夜漬けの受験勉強みたいになっているのでしょうか。

牧野氏:

内部統制という形は整えても、数年先を見通したその企業の戦略を内部統制に反映させなければ、取り組みの優先順位が分らず、焦点を絞れませんから、効果も現れにくいでしょうね。

間違ったリスク回避は、むしろ問題

Q2.過剰な統制により、企業活力が失われた例をご存知であればご教授下さい。

牧野氏:

過ぎたる干渉や過ぎたる管理をしている企業はあります。特に内部統制の初期の段階ともいうべき個人情報保護対策ではその傾向が強かった。個人情報というのは、ある意味取り扱いにリスクを伴いますが、利益の源泉になる可能性があり、リスクを承認した上で、そのリスクを利益に転化する仕組みを考えないといけない。しかし、リスク排除ばかりに興味を持ち、そのリスクのない仕事に偏ってしまう。すなわち大きな利益を取れない方針に陥っている企業を多数見ました。具体的には「個人情報を持つな、使うな、消せ」とやったところ、結局企業の力がグーッと停滞しはじめた。しかし、停滞している理由がよくわからないので、社員の尻を叩いて「お前らいけー!仕事して来い」とやるけれど、顧客との信頼関係が全然出来ない。そして、新規開拓に飛び込み営業をやるけれど、そこで集めた名刺を一生懸命捨てている。こんな例もありました。

吉村:

取り組みのPDCAがうまく回り、徐々に改善されていくサイクルであればいいと思うんですけど、リスクを単に回避するという意識を会社全体に変な形で浸透させてしまう事が、むしろ問題なんじゃないかなと感じます。

業務改善に結びついた内部統制が、継続のカギ

Q3.本格始動後も内部統制を形骸化させないための取り組みとは何だと思いますか?

牧野氏:

絵はすごくきれいに書けている。形式・組織も十分に出来た。担当者もみんな経験がある人が座った。それで動くかというと、殆ど動かないでしょう。その一番の原因は自分達の業務を理解していないからだと思うんですよ。
PDCAとおっしゃったけども、まさにその部分。内部統制の本質的な部分は、記録や報告です。会社内の良い悪いが目に見える形にしておくことです。業務フローからはじまり、日常的な業務の記録や、さらにあんなふうになった、こんなふうになったっていう事も含めて全部です。そういった業務の重要なポイントが記録されていることがまず第一です。
そういう記録があって初めて自己点検が可能になり、監査を実施し、改善方法がでてくると思います。それこそが、内部統制のPDCAで、継続改善ができる仕組みが出来るのです。
良い例がトヨタですよ。業務が全部見えるようになっていて、全部報告されて全部業務改善に結び付けていますから。典型的な成功例だと思いますよ。

吉村:

物作りの時代に比べてサービス化が進んだ事によって、記録を残すことが難しくなっている側面っていうのもあるのかと思うんです。

牧野氏:

あると思います。ただ僕らがデータをいじくる時って全部残る物じゃないですか。それをもっと意識的に残して、意識的に意味づけしていかなきゃいけない。記録っていうのは自動的に生まれて消えますから、生まれて来た時に制御してきちっととっておく作業を合理的に考えて構築しておけばよい。

吉村:

改めて記録しなきゃいけないというハードルをわざわざむける必要はありませんものね。

業務改善に特効薬なし。社内の不協和音の見える化から始まる

Q4.業務改善と効率性向上のためには、何が必要だと思いますか?

牧野氏:

効率性を高めるためには、経営者も従業員もハッキリと不満を言うこと。どういうことかと言うと、業務効率性っていうのはリソースが最大のパフォーマンスを生むっていう事を意味すると思うんですよ。何も粗利をあげましょうって事じゃなくて、人が一番働きやすい環境、道具が一番効率的に使われること。

そうするとまず効率化するためには、例えば取締役の皆さんが本当に今の仕事に満足しているか、改善すべきことがないか、よく考え色んな不満を出していく。
例えば、製品やサービスによる事故が起きて、社長が頭を下げる場合。社長としては、「こういう問題が起きてるってことが何で早くあがってこないんだ。俺はいつも事後報告受けて、マスコミの前出て頭を下げろと言われる。俺は社長室長の召使か」と。これではおかしいんです。本来は、「俺は代表者なんだから、会社のことをもっと見えるようにしろ。全体の姿を見せろ」と社長に言ってほしい。
そうなると、会社全体の姿を定期的に、あるいは緊急に社長に説明できるツール、あるいはそういう手段というのを用意する必要が出てきます。

今、問題はここで起きているとか、いつもこの取締役の下で起きるということが分る。さらに、お客様からメールで「おたく最近何か従業員よくないね」とか「いつもお金が高いだけでサービスも良くないね」とあがってくる。
社長は会社に出てきたら昨日、一昨日、一昨々日何が起こったかスーっと頭の中に染み込むように分るようになって、それをきちっと解決するのが役割なんです一方従業員の場合は、彼らが納得しないでやっている時ってモチベーションが絶対下がる。なぜそういう事が必要なのかというのも含めて、彼らの不満というのを明確に出しておかないといけない。

これらは、モニタリングと呼んだり、情報の伝達という言い方をしているものです。実は効率性というのは、何か特効薬があるのではなくて、まさに現場なり管理者なりの不平不満、様々な不協和音そういったものを的確に出して、どういう問題があるのか明確になって、そこを追求していく事なのではないでしょうか。そうなると、従業員も仕事が面白くなり、役員も無駄な時間が要らなくなる。さらに家庭奉仕も出来るようになって、会社の雰囲気がどんどん変わっていくんですよ。これがやはり効率化を進める最大のポイントなんだろうと思います。

日本型DNAの企業文化を重視した、合理的な内部統制を考えなければいけない

Q5.日本とアメリカにおける、内部統制の取組みの違いとはなんだと思われますか?

牧野氏:

ワールドコムの社歴を見ると、19年目に破綻していて、「え?」と思いました。日本の企業は100年、200年なんてざらにあって、1400年なんてのもある。日本には、世界最高品質のものを作る力があって、それが脈々と育つ風土があると思うんです。親方から弟子に、平準化できない技とか技術を、濃密に伝承していき、最高品質を守り、それを誇りとして満足感を感じ、最高の企業を作っていく仕組みを前々から持っていたんです。

一方アメリカの近代的資本主義は、家作りの標準化のように、どこでも同じものが大量に出来るのが得意であり、そういう合理性のある文化だと思うんです。アメリカの場合、多民族で言語も宗教も文化も違う中で、ある一定基準に適合した健全な企業を作る必要があった。そうすると、業務を共有するために子供でも分るような細かいマニュアルを作って、習得させて作業させる。いい面としては、業務を平準化したことで横断的労働市場ができ、透明性の高い会社ができた。一方、マニュアル型の悪い面としては、微妙な議論ができないんです。そういう意味で、アメリカにおける企業経営とわが国における企業経営はだいぶ違う。わが国における企業形態というのは、縦型の伝承システムをうまくコントロールすることに最大のポイントがあり、アメリカはそれが横に平準化してオープンにすることに置き換わる。アメリカのことも学ばなければいけないけれど、日本型DNAの企業文化を重視した上で、どうしたら一番合理的な内部統制が組み込まれるか、考えなければいけないと思います。

吉村:

アメリカ型の現場というのはむしろ非管理、管理される側というようなニュアンスがあって。むしろ日本の現場にある企業経営の一員として参加しているような意識とは違うと思うんです。内部統制という意味で見た時に、現場の人々の企業活動に対する参画意識というのはだいぶ違うものだとお感じになっていますか?

牧野氏:

日本の場合はやっぱり現場の皆さん見ていても、非常に真面目に対応していますよね。そういう意味では、最近従業者も内部統制をさせなければいけないというのが浸透してきたようで、他人事じゃなくて自分の問題として徐々に捉え始めるという、いい傾向が出てきたんじゃないかと思っています。

人と人との本音のコミュニケーションこそが大事

Q6.日本型DNAの企業文化に合ったITとはどのようなものだと思われますか?

牧野氏:

業務改善プラスIT化が組み合わさって、初めて業務が効率化する。業務改善のないところにITを入れても効果が出ないし、統制なんてできない。その業務に最高の効果をあげられるソフトウエア、あるいは仕組み、システムというのをどう構築していくのかを明確に方針を持って対応していく事が統制だと思いますね。日本の場合はやっぱり難しいと思います。平準化しにくい技術や経験で培われた国ですから。その難しいところをどう解決していくかが、ITベンダーの力を入れる部分なんでしょうね。

吉村:

弊社は業務の分類を、定型と非定型、主業務と雑務で分けて考えています。定型の主業務は平準化しやすくIT化しやすいのですが、我々のドメインというのは、むしろ非定型の側で、ここをどう効率化し、業務と人とセットで効果を上げていくかを追求しているんです。

牧野氏:

人と人のコミュニケーションは、非常に重要ですね。ここが出来なければやっぱり問題が出てくる。まさに非定形業務の部分がどれくらいIT化できるか、すべきところとすべきでないところの棲み分けを明確にできるか。これが各事業所で相当慎重に検討しなきゃいけないと思います。

内部統制とは、企業の生命力を高める活動である

牧野氏:

おそらく内部統制は最終的には、非常に健全であり、且つ、効率性の高い合理的な企業運営、あるいは企業の生命力を高めることだと思う。ある種の競争であると思うし、企業の再生だと思っています。内部統制というのは単なる倫理の問題ではなくて、企業が強くなって競争に勝つことをイメージしていますから、そういう意味では勝つためにはやはり徹底的な合理化を進めなきゃいけない。

ただ売上を伸ばすことは結果論なので、そこを狙うと悪くなっちゃうんですよ。そうじゃなくて企業効率化して、消費者に信頼される企業にしていくと当然結果として利益があがってくるはずなんですね。ここにおける攻めというのは消費者なり、あるいは利用者の信頼されるような説明・仕組み。こういったものを的確に作っていくことだと思います。

吉村:

今日は本当にありがとうございました。

プロフィール
  • 東京弁護士会所属
  • 牧野総合法律事務所弁護士法人代表
弁護士 牧野 二郎

インターネットでの市民の権利や、商取引での個人情報保護問題や認証問題などにネット創成期から関わる。情報セキュリティ問題や個人情報保護対策に積極的に取り組み、さらに企業の組織改善を視野に入れた内部統制対策を推進している。「個人情報保護はこう変わる~逆発想の情報セキュリティ」(岩波書店)など著作多数。