はじめに~日本の行動力
ニッポンの行動力が弱まっている!
これが遠藤さんと私の共通した認識であり、再び共著を執筆するきっかけとなった問題意識だ。1991年にバブル経済が崩壊して以降、明らかに日本の「行動」するパワーや勢いが弱まり、劣化している。
『行動格差の時代』というこの本のタイトルが気になり手に取った人は、この問題意識と共通した感覚を既に認識しているか、潜在的にそう感じている人たちだろう。
もうすでに実際の行動に充てる時間を意識的に増やし、行動を強化しようと取り組み始めている人もいるはずだ。また何となく自分自身や自分が所属する集団・組織の行動力が低下していることに、問題意識を持ち始めている人も少なくないだろう。
本書はこうした「行動の弱体化」に対する問題提起をし、すでに積極的に行動することを実践する人たち、そうすべきだと感じ始めた人たちに向けて、少しでも力になれることを願ってまとめたものだ。
今日、私たちの生活は本当に便利なモノとコトに囲まれている。あらゆるテクノロジーやそれを活用した斬新なサービスが、もの凄い勢いで、安く、手軽に使えるようになり、私たちの生活スタイルは大きく変化している。
ただ便利になっただけではない。インターネットの出現で、ほんの十数年前までは、高いレベルの教育を受けた一部の人か、特別な組織に所属する人だけに握られていた知識や情報も、あらゆる分野で一挙に広まった。
またインターネットに繋がるスマートフォンは、世界中の最新技術や情報、最先端のサービスを簡単に、しかも即座に、どこにいても使えるようにした。特に若い世代の人たちは、そうしたテクノロジーを何の抵抗も無く使いこなしている。
しかし、そうした多くの知識や情報、そしてコミュニケーションやサービスに囲まれる状況の中、私たちは本当にパワーアップしたのだろうか?最新技術をなんの抵抗もなく使いこなす若い人たちは、前の世代よりも賢くなったのだろうか?日本はこれまで以上に逞しくなったのだろうか?
残念ながら、現実にはあまりパワーアップもしていないし、賢くもなっていないし、逞しくもなっていない。
もちろん、抜群の行動力と共に、現代のテクノロジーの恩恵を上手に使いこなせる一部のハイパフォーマーと言われる本当に優秀な人たちは、ますますパワフルになった。しかしそうした人たちは少数派だ。
最新技術も利便性も、あらゆる知識や情報も、特定の人だけではなく、今や世界中の人たちが同じように安く簡単に手に入れることができる。少しぐらい早く最新のスマホを手に入れても、最新のテクノロジーや知識、情報を手に入れても、大した違いはないのだ。
一方で、あらゆる分野で「格差」は広がっている。その格差を生み出す原因はいろいろある。置かれた環境や、時代の巡り合わせ、社会制度。そして、こうした簡単に変えることができない原因の他に、私たち一人一人にも格差を生み出すものがある。
それが「行動」だ。行動は一人一人の意志と決断と情熱に委ねられている。しかしこの行動力が弱体化しているのだ。
「やってみなけりゃ分からない!」このフレーズを本当によく耳にするようになった。私もこの頃よく使う。行動しなければ何も始まらないし、行動しなければ前に進まない。行動しなければ本当のところは分からないのを、皆ひしひしと肌で感じているのだろう。
不透明で不確実な時代。だからこそ実際に現場に出掛け、現物に触れ、本人に会うことでしか得られない、本当に貴重な学びや知恵が大切なのだ。主体的に当事者として行動することで初めて獲得できる「言葉にできない何か」が大切なのだ。
しかし学んだ知識や獲得した情報を、ついつい行動しない=やらないことを正当化する屁理屈に使ったり、傍観者的に批評する為に使ったりしていないだろうか。便利になったことで得られた時間は、実際の行動に使えているだろうか。知識や情報といったインプットを行動というアウトプットに結び付けられているだろうか。
こうした問題意識や疑問、不安を多くの人たちが、程度の差こそあれ感じ始めていると思う。そして今やもう前向きに「やるしかない」状況になっていることに気付き始めている。
この本の中核は、果敢に行動する時に頼りになる「8つの力」について紹介した第2章だ。これらの8つの力は遠藤さんと私が、今でも大切に育み鍛えようと努力し続けているものだ。2人の体験談も交えまとめてみた。
そして前段の第1章を遠藤さん、後段の第3章を私が執筆する構成となっている。
執筆に際して遠藤さんと私で、数ヶ月に渡り何度もブレインストーミングを重ね内容を吟味し凝縮させていった。その後の執筆も、お互いの原稿をレビューし、ディスカッションしながら進めることができた。
それは本当にエキサイティングで有意義な時間であり、何よりも「今、主体的に当事者として行動しまくる!」ことの大切さを痛切に再認識する貴重な機会になった。
そのときの熱気に溢れワクワクした感覚や、ほとばしり響き合った二人の情熱が読者の方々に少しでも伝播し、微力ながらも皆さんの「行動」の後押しになることを願って止まない。
2012年の秋から始まった執筆の半分以上は、たびたび出張で訪れた沖縄で進めた。琉球の美しい海と星空、温かな人々に癒され励まされ、紆余曲折しながらも書き上げることができた。沖縄との素晴らしい縁に心から感謝したい。
バブル崩壊後の長いトンネルを抜け、いよいよ積極・果敢に動き出すときが到来した。情熱が本気の行動となり、本気の行動が情熱を伝播させ広がっていく。そして、その先に「行動格差の時代」を生き抜く上で最も大切な力があるのだ。
2013年3月 山本 孝昭